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鎌倉から
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6
和歌子は次郎の次郎の動作に誘われたわけでもないが、歩きながら手を伸ばし指が届くところの青葉から少し爪先立てて、より高いところにある青葉に触れたりしている。
時折葉っぱをひっくり返しては好奇心なのかぁ、裏側には何も無いのは承知の上で見詰めたりしている。
「でもこれから会いたい時に会ったりする時間は制約されるわねぇ」と少し開いた間隔を投げ遣り的な言葉で埋め、一枚の青葉を右手で千切った。
目立たないが薄い臙脂色の口紅で艶を出している唇近くで息を吹きかけた。
その唇は二ヶ月前の薄いピンクの唇と比べると幾分かふくよかな大人の唇に仕上がっている。
「別に外国に行く訳でも無いし」と次郎は気分爽快な日和を浴びながら擦れ違う人の存在を羨ましく思いながら、これ以上鎌倉に移り住むことに関してグダグダ言うなぁと言う表情を浮かべ怒りポク言った。
「そうねぇ、次郎さんは一度決めたら引かないところがあるからねぇ」と和歌子は次郎の心模様の変化に察知したのかぁ、溜め息を付きながら観念する言葉を青葉の隙間の青空に吐くように言った。
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5

まるで母親が旅立とうとする子が決めた道に対して、諦める様にそこまでいかなくてももう一度考え直してみなさいと言う口吻である。    

「東京から少し遠いと思うけど」悪戯な風に乱されたロングヘアーの黒髪を両手で富士額の中央部分から小指を差し入れ、書き上げ襟首の辺りで束ねて、また語尾を下げ睨む様に問い掛けて来た。                 

「都会の雑踏から抜け出したいなら旅をするけど」                        

「ここは電車なら一時間だよぉ」                                   

「そこが問題だわ、時間と距離は別次元だわぁ」                         

「解ったよぉ、近さの感覚が違うと痛いんだろう、北海道までジェットなら一時間程で行けるが近いとは言わないぅて事を」                         

「それは極端な例だわぁ」
又も川岸の彼岸と此岸にいるような苛立つ会話を始めようとするのか。                                                      

次の言葉を閉ざすために、二三メートル先の青葉にバレーボールのアタックを真似る格好で飛び上がって、手で青葉を叩き、より高い青葉へと次々と移動し、和歌子から距離を置き一人飛び跳ねた。

4

「うむ・・」と赤木は又かぁという気分が沸き鼻に皺を寄せて返事らしからぬ応答をした。
「青葉って良いわねぇ・・・、好きでしょう」と言って赤木の答えを期待してはいない感じで何事も無かったように前を歩き出した。
「あぁ・・」と上滑りの言葉にならない感嘆詞の応答しかできず、 考えすぎた一人芝居の自分に照れくささの火照りが首筋に走った。
赤木は場を埋めるため、言葉を繕い
「自然は偉大だよぉ、風景画は芸術として旨いとか表現しても、自然の美には勝てないよぉ、自然は常に活動しているから・・」と昔、西洋人の詩を読んだ時の言葉を思い出しながら言った。
「そうねぇ、生きてるから」と和歌子は擦れ違う人達を軽く交わし同調する様に言った。
幅二メートル程の狭い参道は八幡宮に御参りする親子連れ、だらだらと歩くカップル等大小の小荷物類がベルトコンベアーに流されているように見えた。
ただ、ハイキングコースに向かうグループはいそいそと軽登山靴を周りの人が気が付くような地面に引きずる音を立てて、人々の隙間を見つけては縫うように通り過ぎてゆく。
多少肩が触れ合っても謝らないのはここは都会の一部なのかぁと思った。
和歌子の薄緑のツーピースが一歩一歩遠去かると、揺れる青葉の囁きの中に溶け込んでゆく様である。赤木は今日北鎌倉から歩いた緑濃き細い小道や散策した寺の境内等何度訪れても飽きの来ないこの町、古都という名の鎌倉に一人酔ってはいた。
「どうしてもこの町に住むのぉ」と視界から外れた位置にいると思った和歌子が、語尾が下がる不満気な問い掛けをしてきた。

3
ある日、クラブの会合後、帰る方向が同じ電車だった女性の誘いでターミナル駅近く一杯付き合うことになった時、
二三日後まで 一部始終どんな会話をしたのか、あの人素敵な人だからとか、無感情無関心な事への赤木の心を探ろうとする態度に硬化したことがあった。
赤木は内心、聞いてどうなる・何を物語風に話せば納得するのかと、逆に質問したくなることが季節の変わり目より、いや二十四節気に近いほど詮索したがる女と思った。
赤木は先ほどあやふやにした「・・・」の言葉に二年程前に交際していた女性のことかと思った。
今日この町に着いた時、北国山間部育ちの女性が海に行きたいということでこの町に来たことがあった。
その懐かしさが最初に脳裏を横切ったのは
「次は北鎌倉」というアナウンスが車内を流れ、乗客達大半がざわつきホームに降、りた時の光景が2年前と同じだったからである。
同じ感覚になり道行く中でも、寺や花を見ては淡き・はかなき日々を振り返っていた。
だからその女性に関することかと思った。
2

「・・・がすき」顔を斜に構え、唇を尖らせて、和歌子は時折不意に人を試す様な予期せぬ言葉を掛けて来る。                                     
今も上目遣いの表情を見せ、犯罪者を尋問し真実を追究する刑事のように言った。
赤木自身は隠すほど疚しい部分は持ち合わせてはいない                  
不意打ちに取り繕うとする余り誤解を生ずるような表情・更に質問攻めになるような慌てふためいた焦った顔付には変化する。
そうすると、和歌子は決まって「どうしたの、その顔は」と攻めに掛かり始めてくる。
赤木は何も答えず、顔の中央に虫の居所が悪いと言う目鼻を寄せると、「うふふ」と思った通りと言う自己納得の微笑を浮かべる。
二人が付き合いだしてからは、時間的には短くは無いが、吹聴し自慢するほど長くは無い。

情けだって深くは無いが浅くは無い筈であるが、切羽詰った状況下に無いだけに情の有無・深さは測りがたい。

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