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鎌倉から
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いつしか、デートを重ねだしてから、次郎よりも和歌子は先を歩き出すことが多くなった。

それとともに、次郎が最初に淡く抱いていた輪郭が次第に鮮明な線として浮き出してくる感じになってきた。

数秒毎に後ろを振り返る感じの仕種は離れないようにと言う気配りというより、付いて来てると言う感じに思えた。

ホームは中学生のハイキングらしき格好の団体・歩き疲れた感じの中年グループ・日帰りのラフな格好の家族連れ等見た感じでは近場からの観光客で埋め尽くされていた。
 
次郎達は空席等探す必要な無く、ドアー付近から座席近くまで押し込まれた。

混雑の中で耳は座席にはありついた人々の雑音をBGMに、目のやり場を探したが、カップルが寄り添っている姿からは目を逸らした。

立ち並ぶ人の隙間から見える狭い範囲の固定された車窓、その流れ行く沿線の風景しかなかった。

「やっぱり鎌倉」とお互い車窓方向に向いた儘、和歌子は耳元でささやくように聞いてきた。
「うん」
「何時」
「近いうち」
「何時」
「次来た時」と和歌子の問い次郎の答え、ハリのある会話ではなく短文の言葉が続いた。

愛想ない返答だが、お互いこういう状況の中では、周りの敏感になっている未知の幾つかの耳を立てている気がして、知られたくない気持ちがあり、ヒソヒソ話風に会話をせざるをえなかった。

それ以上に切羽詰ったわけでもないのに息を押し込んで言葉を出す気持ちは歩き疲れた足と同じく鈍くなっていた。

乗車一時間・狭い空間の中、途切れ途切れの淡々とした事務的なやり取りが続いた。

沈黙が時間を支配したの中の会話は寡黙が似合っていた。
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ホームに向かう和歌子を何気なく見ていると、今まで見過ごしてきた後姿は丸みを帯びた輪郭がスリム化してきた気がした。

色香は子供の頃、憧れた年上の都会生活をして帰省してきた女性の香りを漂わせている。

和歌子は4月から図書館勤めをしてきているために休館日の月曜日にデートは出来るが、新人は書物の名を覚えたり整理に追われ、その他の雑用も多く、学生時代図書館を利用していた時の見た目と違って、夫々の仕事にはそれなりの仕事があることに気付いた。
会うたびに大変なのよと言うのが口癖になっている。

彼女とは一年前に軽登山クラブの新人会員募集で同時入会した関係上、同じ遠慮がちな立場から会話が多くなり交際を続けている。
彼女が大学生の頃は比較的自由にデートを楽しむことが出来たが社会人になるとそうは行かなくなった。

次第に彼女の精神面も社会人としての自覚と共に日増しに大人びいてきて、時折言葉の端々に現実的な打算的な考え方を説教絡みで迫ってくる。

逆に言えば、赤木は甘いと言われるかもしれないが、和歌子は夢がなくなってきている。

赤木は近頃和歌子と会って別れた後、今まで築いてきた砂の城に漣が打ち寄せ周りから徐々に砂を削り崩して行くような気がする。

何れの日にか赤木の背丈を越える高さの大波のうねりが白い波頭で飲み込んでそして跡形も無く平らな砂浜にしてしまう気がした。
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性欲と同様に食欲も満たす前の顔には品性というものが現れるもんだなぁと思った。

日頃の我を見失っている叔母さんグループを評価しながら、ふと赤木もその一人と思うと顔を平常心に繕い始めた。

又もや店の戸が開き、中年の和服姿の五人の女性が出てきた。

最初に口走る言葉は一様に美味しかったわねぇという決まり文句である。
次に何がおかしいのかぁ、店前で環を作り並んでいる行列の疲れを無視するざわつきを残し小町通に去って行った。

やっとのことで店内に入ると、子供は現金なもので、駄々を捏ねていた顔は笑顔に豹変した。

壁に飾られている古めかしい民芸道具や器等に透かさず反応するのは雰囲気に乗せられ易い叔母さん達である。

3時近くになったからバイトがために駅に向かった。
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さも作りたての蕎麦を食べさせる店を強調している風であり、手作りと言う言葉の持つ響きは観光客の食指を動かすものである。 観光客相手のノウハウを知った上だが、黒光りはしているものの店構えは古くなく、近頃は新しい老舗と言うべき格好の一丁前の店が多い。 次郎達もその看板に甘えて、入り口の行列の最後部に参加した。 待っている人はスピード感ある入れ替わりを望む顔付きである。 デートが浅い学生らしきカップルは客の回転の遅さを紛らわすために大学での友人の笑うには足らない話に無理やり顔を綻ばせている。 親子連れの子供は耐えるということを学び終えていないから体を左右に動かし足が疲れたお腹が空いたとか正直に欲望を表現している。 叔母さんグループは店の中から客が出てくる度に睨み、ヒソヒソ話をしだし、お互い卑しい顔を作りその食べ終えた客の姿が見えなくなると元の話題に戻る。
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東京に住んでいると、テレビ雑誌などのマスコミは勿論町並みまでが先取りした季節感を無理やり押し付ける様には飽き飽きしてさらに都会の雑踏喧騒・コンクリート社会の無常さに嫌気をさした。
これは少し年を重ねたせいかぁ、自然豊かな地方出身者のためか定かではない。
こんな受身的な生活から脱出したいと言う心境がここ一・二年心を急かせ、体をこの町の方に向けさせた。
和歌子は青信号になると、何かに惹かれたのか横断歩道をさっさと渡り、手を軽く上げて、人差し指を曲げて、黒塀の構えの店を指し声を出さないが次郎を呼んだ。
思うと北鎌倉から今まで口にしたものと言えばジュースだけであり、食事処の看板を見ると急に空腹感が出てきた。
自家製の手打ち蕎麦と言う宣伝文句が立て板に大袈裟に書かれていて、通りに面した入り口横のガラス張りの向こうで職人がそれを証明するために蕎麦粉を直向きに捏ねては棒打ちし細かく切っている。
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